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1. 人と森の距離感
今年の秋は、豊穣(ほうじょう)の喜びと、それに伴う不安が入り混じる季節となった。主役は、ツキノワグマである。例年にも増して、人里に近い場所での目撃情報が相次いでいる。山から下りてきた彼らは、畑を荒らし、時に人を襲い、私たちの日常に「野生の重み」を突きつけてくる。
2. 異変の連鎖
なぜ、これほどまでにクマの出没が目立つのか。一つの要因として、昨年のドングリ類の不作と、それに対する今年の記録的な豊作が挙げられる。栄養をつけたクマが、さらに食料を求めて行動範囲を広げている。だが、この異常事態は、単なる「ブナの豊作」だけで片付けられない。夏の酷暑、頻発するゲリラ豪雨。気候の変調は、山野の生態系そのものを揺るがし、彼らの行動を人里へと向かわせる「見えない圧力」となっているのではないか。自然界の小さな歯車が狂い始めた時、その影響は私たち人間の生活にも、すぐに及んでくる。
3. 共存の知恵
私たち日本人は、古来より森と共生してきた。しかし、戦後の開発や生活様式の変化によって、人と森の境界線は曖昧になり、互いの領域を侵食し合っているのが現状だ。クマを闇雲に恐れるだけでなく、彼らがなぜ、そこにいるのかという背景に目を向ける必要がある。彼らの冬眠前の食料を確保する手立てや、人が安全に暮らせるための緩衝地帯をどう設けるか。「山はクマのもの、里は人のもの」という明確な線引きと、互いに尊重し合う「知恵と工夫」が、今、改めて求められている。この困難な問いに、私たちは地域社会全体で向き合う必要があるだろう。

