中国国内の中高年層の間で、スマートフォンへの依存から脱却し、健康を取り戻すための新たなブームが巻き起こっている。これまで、若者を中心に流行していた「スマホ断ち」が、健康への意識が高い中高年層に広がりを見せ、「目と肩の健康を取り戻す」として、新たなライフスタイルとして定着しつつある。
このブームは、浙江省の58歳の男性、王（ワン）氏が、長時間のスマートフォンの使用により視力が急激に低下し、深刻な肩こりに悩まされたことがきっかけで始まった。王氏は、医師から「このままでは失明の危険性もある」と警告を受け、一念発起。スマートフォンを解約し、昔ながらのガラケー（フィーチャーフォン）に切り替えた。
すると、驚くべき効果が現れた。王氏によると、ガラケーに切り替えてわずか1ヶ月で、ぼやけていた視界がクリアになり、悩まされていた肩こりも大幅に改善したという。この成功体験が、中国版SNS「微博（ウェイボー）」を通じて瞬く間に拡散され、同じ悩みを抱える中高年層の共感を呼んだ。
現在、北京や上海などの大都市圏を中心に、スマートフォンをガラケーに持ち替える「回帰族（ホイグイズー）」と呼ばれる人々が増加している。彼らは「スマホを手放して初めて、家族や友人との直接の会話の楽しさを思い出した」「公園を散歩したり、読書をしたりする時間が増え、心が豊かになった」と口々に語る。
また、このブームは経済にも影響を与えている。大手IT企業は、高齢者向けのシンプルな機能に特化したガラケーを再生産し、人気を集めている。さらに、スマホ断ちを支援する「デジタルデトックス・キャンプ」も各地で開催されており、多くの参加者が集まっている。
一部の専門家は、「これは単なる流行ではなく、デジタル社会に疲弊した人々が、人間らしい生活を求めて回帰する、新たな社会現象だ」と分析している。中国の中高年層の「スマホ断ち」ブームは、デジタル社会のあり方を問い直す、大きな一石を投じることになりそうだ。
