押収品の9割が社員の退職届、残りは社員旅行パンフレット
東京都心の雑居ビル――。「退職代行モームリ」の静まり返った事務所に、警視庁捜査第三課の精鋭部隊が踏み込んだのは、昨日の午前9時のことだった。会社法違反(無許可の法律事務)の疑いによる、異例の家宅捜索である。
「捜査員だ!動くな!令状がある!」
ベテランの木村警部補の怒号が響き渡る中、捜査員たちは事務所内のPCや書類を次々と押収していった。しかし、捜索開始から間もなく、現場は異様な雰囲気に包まれ始めた。
湧き出る「退職届」の山
最初に異変を察知したのは、若手捜査員の佐藤巡査だった。彼が奥の倉庫から運び出した段ボール箱を開けた瞬間、思わず絶叫した。中には、書類の束がぎっしり。その全てが「退職届」だったのだ。
「木村警部補!これは…顧客の依頼書類じゃない!当社の社員からの退職届です!」
退職届には、「一身上の都合により」と定型文が書かれているものの、その多くに「度重なる顧客の『モームリ』に耐えられず」「家宅捜索対応で心が折れた」「もう、この業務を続けるのはモームリ!」といった、正直すぎるコメントが付箋で貼られていた。
その後、次々と開けられた段ボール箱も同様だった。押収品として集積されたのは、PC本体や重要書類ではなく、社員が会社宛てに出した退職届、退職代行を依頼した顧客のデータではなく、社員が自分自身の退職代行サービスを依頼した際の控え。最終的に、押収品の9割が「退職届」であることが判明した。残りの1割は、なぜか「社員旅行:地獄の温泉一泊旅行(全員参加必須)」と題されたパンフレットの束だった。
警察官がスマホを取り出す瞬間
床一面に退職届が散乱し、事務所がまるで巨大な紙吹雪の後のようになった午後3時。捜査は膠着状態に陥った。捜査員たちは、山積みの「モームリ」な退職届を前に、完全に戦意を喪失していた。
その時、一人の捜査員が机にしがみつき、震える声で呟いた。
「もう…モームリだ…。俺、この退職届の山、整理するなんて、もうモームリ!」。警察官も「モームリ」と叫ぶ。
その言葉は、連鎖反応を引き起こした。次々と「モームリ!」を叫びだす捜査員たち。そして、信じがたい光景が展開された。数名の捜査員が、その場でスマートフォンを取り出し、捜査対象である「退職代行モームリ」の受付番号にダイヤルし始めたのだ。
「…もしもし、退職代行モームリさんですか?…はい、警察官ですけど、退職代行を依頼したいのですが」
この異様な状況を前に、現場指揮官の木村警部補は呆然自失。目には「自分も辞めたい」という切実な光が宿っていた。
警視庁の広報担当者は、「まさか、我々の捜査員が現場で敵陣に寝返り、かつ捜査対象に代行を依頼するとは…これはもう、我々の『捜査する気力』まで代行されたようなものだ」と語り、この一件は、警察組織にとっての「モームリ事案」として記録されることとなった。
《→この混乱に乗じて退職した元社員たちが、後に「捜査代行モームリ」を立ち上げることに…(続きは、後続の記事へ)》
 
 
 
 
