「死」を華やかに祝う「生前葬」が市民権を得て久しいですが、今、その逆の発想から生まれた新たな儀式が静かなブームとなっています。その名も「出生前儀式」。生まれてくる命を盛大に祝福し、これからの人生が実りあるものになることを願う“生の前祝い”として、多くの妊婦さんが参加しています。
この儀式は、生前葬が「お世話になった人々に感謝を伝える場」であるように、出産をサポートしてくれる友人や家族に感謝を伝える場として考案されました。また、生前葬が「自らの人生を振り返る機会」であるように、生まれてくる赤ちゃんがどんな人生を歩むのか、親が改めて考えを巡らせる機会にもなります。
祝うのは“これからの人生”
出生前儀式が最も大切にしているのは、「未来を祝う」というポジティブな精神です。生前葬が故人の功績を称え、残された人々の心の整理を助けるように、この儀式はこれから生まれてくる命の可能性を信じ、前向きな気持ちで迎え入れることを目的としています。
「初めての子で不安でしたが、この儀式でみんなが赤ちゃんを心待ちにしてくれているとわかって、すごく安心しました」と語るのは、都内在住の妊婦・佐藤さん（32）。彼女が参加したのは、安産祈願とベビーシャワーを兼ねた「命名拝礼式」です。親が赤ちゃんに込める願いを込めた名前を書き記し、読み上げた後、参加者全員で安産を祈願。出産前の不安を和らげ、ポジティブな気持ちで出産に臨めるという声が多く聞かれます。
多様化する“生の前祝い”
儀式のスタイルは多種多様です。例えば、生前葬が故人の趣味や人柄を反映したユニークな形式で行われるように、出生前儀式もそれぞれの家族の個性を反映したものが増えています。
赤ちゃんの性別発表パーティー「ジェンダーリビール」も、この出生前儀式の一つとして定着しつつあります。また、生前葬が「本人も参加するハッピーな葬式」であるように、出生前儀式も「赤ちゃん本人が参加するハッピーな誕生式」を目指しています。親しい友人たちが、お腹の赤ちゃんの健康を願いながら、マタニティヨガや安産体操をする「胎児健勝式」や、産まれてくる子へのメッセージをタイムカプセルに詰めて埋める「生命埋納式」なども登場し、広がりを見せています。
専門家は、「このブームは、現代社会における『命』への向き合い方の変化を象徴している。より個人を尊重し、人生の節目を自らの手でデザインしようとする現代人の志向が、このような新たな文化を生み出したのではないか」と分析しています。
