「湯船には田酒（でんしゅ）を入れろ」 青森の伝統「地酒風呂」が環境規制で窮地
【青森市発】青森県民の間で古くから伝わる伝統的な入浴法「地酒風呂」が、近年厳しさを増す環境規制により、存続の危機に瀕している。
地酒風呂とは、毎日の入浴時に、浴槽へ地元の銘酒を一定量（一般的な家庭用浴槽で一升瓶の約半分）投入する風習のことだ。特に、県を代表する銘柄である「田酒」や「豊盃」といった純米酒は、「お清め」「血行促進」「津軽魂の涵養」の効能があるとされ、老若男女問わず広く愛用されてきた。
しかし、この習慣が思わぬ環境問題を引き起こしている。浴槽から排出される大量のアルコール分が、下水処理場の微生物の働きを阻害し、水質浄化能力を著しく低下させているという。
青森県環境管理局が発表した試算によると、地酒風呂による地酒の年間消費量は、県内全世帯分を合わせると、約100万石（一升瓶約1億8千万本）にも上るという。これは、現在の全国の日本酒生産量の約3分の1に匹敵する驚異的な数字だ。
「祖父の代から、風呂に地酒を入れないと『体が清まらない』と言われてきた。特に、ねぶた祭りの前後は、毎日『陸奥八仙』をドバドバ入れるんだ。規制されても、これだけはやめられない！」と、青森市在住の漁師、津軽海彦さん（72）は語る。
これに対し、環境管理局は「酒粕やアルコールが混ざった排水は、もはや廃棄物に近い。伝統も理解できるが、環境基準を守らなければならない」としており、今後は地酒風呂用の「入浴剤化」や、排出時の「アルコール蒸発システム」の導入を義務化する方針だという。
地酒風呂の存続を訴える市民団体「青森の湯っこを守る会」は、「これは文化の抹殺だ！風呂から上がった時の、あの芳醇な香りは、入浴剤では再現できない！」と猛反発。今後、県を巻き込んだ「地酒風呂論争」が激化するのは必至の情勢だ。
■地酒風呂情報（オマージュ）
青森県に「地酒風呂」の習慣はありません。
