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1. 「国民的番組」が映す時代の気分
年の瀬が迫り、誰もが意識し始めるのが、大晦日の風物詩、「紅白歌合戦」だ。今年で76回を超える歴史を持つこの番組は、もはや単なる音楽特番ではない。その年のヒット曲や話題の人選を通じて、日本社会の「気分」を凝縮して映し出す巨大な鏡のような存在である。SNSが世論を形成する現代においても、家族や友人とともに同じ画面を囲み、感想を共有する体験は、世代を超えた一つの「共同体感覚」を呼び起こす。
2. 演歌からJ-POP、そしてボーダレスな時代へ
番組の構成を振り返ると、時代の変遷が克明に見て取れる。高度経済成長期は、老若男女に愛される演歌・歌謡曲が主役だった。しかし、平成に入るとロックバンドやアイドルが台頭し、番組は多様な音楽ジャンルを包摂し始めた。最近では、K-POPアーティストやアニメ・ゲーム関連の楽曲、さらには海外のチャートを賑わせる楽曲の参加も珍しくなく、もはや「紅白」のボーダーラインは国境を越え、完全にボーダレスな音楽シーンの縮図となっている。
ある年のことだ。筆者は親戚の家で紅白を見ていた。普段、音楽にほとんど関心を示さない祖父が、最新のヒット曲に合わせて口ずさんでいるのを見て驚いた。その曲は演歌でも歌謡曲でもなかったが、アップテンポなリズムとキャッチーなメロディーが、世代の壁を超えて響いていたのだ。その瞬間、流行の最先端と伝統が交錯する紅白の持つ計り知れない「求心力」を肌で感じた。
3. 年末の喧騒を締めくくる一つの儀式
出場歌手の選考基準や演出について毎年、様々な議論が巻き起こる。それは、この番組が私たちにとって、それほどまでに「大切で特別な時間」だからに他ならない。一年の労苦をねぎらい、来る新年への希望を託す。私たちは今年も、紅白の熱狂的なパフォーマンスや、感動的なフィナーレを見届けながら、静かに、そして賑やかに、一年という大きなサイクルを締めくくるのだろう。

