コラム: 師走の風と銀の箱

コラム

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  1. 街角を走る新たな日常

師走の風が冷たさを増す中、街を行き交う自転車の姿が目に留まる。背負われた大きな四角いリュックサック。黒や緑、鮮やかな赤。信号待ちの交差点で、スマートフォンを指でなぞる彼らの姿は、いまや都市の風景の一部として完全に溶け込んだ。かつては特別な日の贅沢だった「出前」が、指先一つで日常の食事へと変わって久しい。

  1. 蕎麦屋のせいろと記憶

ふと、昭和の古い映像を思い出す。片手で自転車のハンドルを握り、もう片方の肩には、高く積み上げられた蕎麦のせいろ。あの曲芸のようなバランス感覚は、職人技とも呼べるものだった。 それに比べ、現代の運び手たちを導くのは熟練の技ではなく、洗練されたアルゴリズムだ。地図アプリが示す最短ルートを辿り、温かい料理を冷めないうちに届ける。形は変われど、空腹を満たしたい誰かのもとへ急ぐそのペダルの重さは、昔も今も変わらないのかもしれない。

  1. デジタルと温もり

画面越しの注文は、どこか無機質に感じることもある。しかし、玄関先で受け取った紙袋はずっしりと重く、そこには確かな湯気が閉じ込められている。 寒空の下、誰かが自分のために走ってくれたという事実。そのささやかな温かさが、料理の味を少しだけ深くしている気がした。便利なシステムの上にも、確かに人の営みがある。

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