【開発秘話】「肉球の香ばしさ」再現に３年　狂気の嗅覚研究に迫る

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次世代空気清浄機「ニャノイー」の開発秘話を独自に入手

「猫の匂いは、化学記号の羅列ではない。ロマンの結晶なんです」

　大ヒット商品「ニャノイー」の開発リーダー、猫山電機・第２開発部の犬飼（いぬかい）健太氏（４５）は、目の下に濃い隈を作りながらそう語った。彼が率いるチームは、過去３年間、来る日も来る日も猫の匂いを嗅ぎ続け、それを化学成分へと翻訳する作業に没頭してきた。

――最も苦労した点は？

　「やはり『肉球』の再現ですね。世間ではよく『ポップコーンの匂い』と表現されますが、あれはあくまで比喩です。厳密には、酵母のような発酵臭、わずかな土埃、そして猫自身の汗（実は猫は肉球にだけ汗をかきます）が混ざり合った、非常に複雑なアンサンブルなんです。　初期の試作品では、単にポップコーンの香料を使ったため、モニターから『これでは映画館のロビーだ』と酷評されました。我々はそこから、ポップコーンの焦げ感を１％刻みで減らし、代わりに『干し草』や『微量のアンモニア』成分を配合することで、ようやく生命感のある『生きた肉球』の匂いに辿り着いたのです」

――データ収集はどうやって？

　「社員の飼い猫はもちろん、全国の猫カフェ１００店舗以上に協力を仰ぎました。エンジニアたちがガラス管を片手に、寝ている猫の腹や肉球に鼻を押し付け、深呼吸を繰り返す。通報されかけたことも一度や二度ではありません。　特に難航したのは『お風呂に入っていない猫の背中の匂い』のサンプル採取です。これが最もリラックス効果が高いのですが、個体差が激しい。最終的に１０００匹以上のデータを解析し、黄金比とも言える『太陽光７：ホコリ２：獣１』のブレンドを発見しました」

――なぜそこまでこだわるのですか？

　「現代社会はあまりに清潔すぎます。無臭・除菌が正義とされる中で、人間は本来あるべき『生物としての温かみ』に飢えている。　私は猫アレルギーで、本物の猫には触れません。このニャノイーは、私のような『触りたくても触れない』人々のための、執念の発明品なのです」

　犬飼氏はそう言うと、試作機のスイッチを入れ、虚空に向かって愛おしそうに頬擦りをした。