この記事は約 6 分で読めます。
「残業代は美意識」「会議は無言」全公務員・上場企業に義務化
〜「令和の大儀」に基づき、生産性向上を最優先〜
(令和七年十一月十四日)
政府は本日未明、わが国における生産性の「抜本的改革」を断行するため、全公務員および上場企業を対象とした新しい行動規範、「令和版・禁中並公家諸法度」(通称:禁公法)を緊急閣議決定したと発表した。本法度は、来月より即時施行される。
本法度は、江戸時代の朝廷・公家の行動規範を現代に蘇らせたもので、「無用の業務を極限まで削ぎ落とし、精神性の高い『令和の大儀』に資する職務遂行」を目的としている。特に、多くの企業・組織が長年の懸案としてきた「非効率性」に対し、極めて大胆な規制を設けているのが特徴だ。
📜 令和版・禁中並公家諸法度(抄)
【第一条:会議の儀】
- 一、無言の会議を正とす。
- 発言は原則として禁止。議論の必要が生じた際は、事前に提出された「会議文(かいぎぶみ)」を熟読し、参加者は自らの席で五分間、深く頷くことで賛意を示すものとする。無言の承認は、即座に結論として採択される。
- 一、会議の時間は、三十秒以内を上限とする。
【第二条:残業の儀】
- 一、残業代は「美意識」として捉えるべし。
- 時間外労働に対し、金銭的報酬は一切支給しない。その代わりに、残業時間に応じて「奉公美意識点」が付与され、これが昇進・昇給の唯一の判断基準となる。
- 一、午前零時を過ぎての業務は「深奥なる研鑽」とみなされ、当事者の氏名が組織の「偉業の帳」に無記名で記載される。
【第三条:公文書の儀】
- 一、公文書は、すべて縦書き・毛筆フォントの使用を義務化する。
- 特に重要度の高い文書は、A4一枚あたり三百字以内とし、余白の美を追求すること。
- 一、稟議(りんぎ)の電子化は厳禁とする。
- 全公文書は「押印マトリックス」を設け、関連部署の役職者全員が、物理的な判を、寸分の狂いなく押印し終えるまで、その執行を停止する。
【第四条:情報伝達の儀】
- 一、「報・連・相」は、「報」のみを許す。
- 「連」絡、「相」談は、自らの職務怠慢に繋がる可能性があり、厳に慎むべし。「結果を以て、報告に代えよ」を信条とする。
- 一、全従業員・公務員に対し、年間百二十日間の「デジタル断ち(だんち)」を命ずる。
- 期間中、PC・スマートフォン・メールの使用は禁止され、情報伝達は組織内の使者を介した「伝書(でんしょ)」によるものとする。
この異例の法度制定に対し、各方面から驚きと困惑の声が上がっている。某大手電機メーカー幹部は「会議で頷くだけで結論が出るなら、時間の節約にはなるが…」と戸惑いを隠せない。また、公務員労働組合は「美意識で家族を養うことはできない」と反発しているが、政府は「これこそが真の働き方改革であり、日本の生産性は歴史的転換点を迎える」と強気の姿勢を崩していない。
第5条以降第10条まで(一般規定編)
【第五条:メールの儀】
- 一、電子メールには、本文の長さに関わらず、必ず五十文字以上の定型的な時候の挨拶を挿入すること。
- 季節外れの挨拶文は「風流を解さない」として懲戒の対象とする。
- 一、件名には、内容の要約を一切記述しないものとする。
- 「重要」「至急」等の語句は感情的な騒乱を招くため厳禁とし、「ご一読の程」等の曖昧な表現を用いるべし。
【第六条:謝罪の儀】
- 一、謝罪は、非がない場合に最も丁寧に行うべし。
- 自らの過失が明らかな場合の謝罪は、「反省」という内省の領域に属するため、簡潔で硬質な言葉を用いるものとする。
- 一、「お客様は神様」の精神に基づき、顧客対応においては、三回に一度の割合で土下座を義務とする。
- ただし、土下座の姿勢は腰痛予防の観点から、五秒以内で完了するものとする。
【第七条:資料作成の儀】
- 一、プレゼンテーションに使用する資料は、視覚的な理解を妨げるため、一枚あたり十五行以上の文章で埋め尽くすこと。
- グラフや図表の使用は、「直感」という精神性を損なうため、極力避けるべし。
- 一、作成後の資料は、必ず一度、すべて印刷し、その後、不要な紙を「環境への配慮」の名のもとに手作業で裁断し、破棄するものとする。
【第八条:専門用語の儀】
- 一、横文字(カタカナ語)の濫用を推奨する。
- 「アジェンダ」「コンセンサス」「ペンディング」など、日本語で代替可能な単語は積極的に使用し、会話の透明性を意図的に下げるべし。
- 一、組織内部でしか通用しない独自の略語(例:「キンコウホウ」)を三十種類以上作成し、外部とのコミュニケーションの際は、あえてその略語を多用すること。
【第九条:情報セキュリティの儀】
- 一、パスワードは、「P@ssword1」や「12345678」などの、覚えやすく親しみやすいものを正とする。
- 複雑なパスワードは、心の平穏を乱すため、禁止とする。
- 一、重要なデータは、バックアップを一切取らないものとする。
- データの喪失は「デジタルな断捨離」であり、天命として受け入れるべし。
【第十条:働き方改革の儀(逆行)】
- 一、休憩時間の一律禁止とする。
- 休息は、デスクに座ったまま、目を閉じ、微動だにしない「静寂の瞑想」をもって代えるべし。
- 一、「週休二日制」を「週七日勤務」へ段階的に移行し、「働き続けることの美徳」を体現するものとする。
- これにより、すべての国民が「労働の大儀」に目覚めることを期待する。
■法度情報(オマージュ)
11条以降の人事評価編、12条以降の服務規程編を後日入手予定

