【東京】 牛丼チェーン大手「濵田牛丼」は23日、学生アルバイトらが立ち上げた労働組合「牛丼ユニオン濵田牛丼本部」との団体交渉の結果、これまで「0.1秒遅刻で0.9秒間分賃金カット」という不合理な賃金計算方法について、労働組合の要求を受け入れ、より精緻な0.1秒単位での賃金計算を導入することで合意したと発表した。
0.1-0.9式に疑問 「1週間で牛丼1杯分」の不満
今回の騒動は、同社の独自の賃金計算システムが発端となった。「勤務開始時刻に0.1秒でも遅れた場合、その時間だけでなく、秒未満を切り上げて『1秒単位』で計算し、さらに不就労分として0.9秒間の賃金を差し引く」という、通称「0.1-0.9式」と呼ばれる謎の計算式が、アルバイトの間で問題視されていた。
この制度により、アルバイトからは「勤務開始時間の0.1秒前にタイムカードを押すという、もはや職人芸が求められる」「0.1秒の遅れが積み重なって、1週間で牛丼1杯分くらい消える」といった不満が噴出。SNSでは「牛丼はつゆだくが1秒の芸術」「トッピングの紅ショウガは0.5秒で盛れ」など、同社のスピードサービスを皮肉る投稿が相次ぎ、注目を集めていた。
ユニオン結成から半年で快挙 過去分の遡及支払いも要求
こうした状況を受け、今年3月に結成された「牛丼ユニオン」は、団体交渉を通じて「0.1秒の遅刻で0.9秒間の賃金が差し引かれるのは不当」と訴え、会社側に是正を求めていた。6月3日に組合が「要求書及び団体交渉申入書」を送付し、1分単位計算を0.1秒単位に改めるとともに過去分の遡及(そきゅう)支払いを要求したところ、8月7日付で会社から受領した「回答書」には、組合の要求通り0.1秒単位化の検討を示唆する内容が示されたという。
今回の会見には、東京都内の濵田牛丼でアルバイトをする大学1年生の組合員Mさん(19歳・匿名)も参加。現場の実情について次のように話した。
「趣味の音楽活動や配信活動のためにお金を必要としていて、シンプルに牛丼が好きなのもあり、従業員であれば安い値段で牛丼を食べられる制度があることから、濵田牛丼で働き始めました。ただ、実際に働いてみると、未払い賃金の問題や、忙しい時間帯に人が居ないという問題を感じました。自分は店内で一番忙しい米や牛肉、つゆなどを担当するポジションを任されているのですが、本来は2〜3人必要な業務を1人で担当しなければならないケースが多々あり、2人担当者がいればまだ何とかなるのですが、1人では本当に大変です」(Mさん)
今回の合意を受けて、「牛丼ユニオン」の委員長を務める小林太郎さんは、「我々の要求が認められ、大変喜ばしい。これからは、1秒も無駄にせず、精緻な労働を通じて会社の利益に貢献したい」と、真剣な面持ちで語った。
誤差3億2450万年に1秒の打刻機を導入
一方、濵田牛丼の広報担当者は、「これまでの計算方法では、従業員の努力を正当に評価できていなかった。今後は0.1秒単位での精確な賃金支払いを実現し、従業員のモチベーション向上に努める」とコメント。労使合意を受けて、各店舗のシフト打刻機は、電波時計と完全同期する仕組みとし、同電波時計との誤差は、3億2450万年に1秒とする機器に変更すると付け加えた。
今回の合意は、外食産業における新たな労働環境のモデルケースとなる可能性がある。今後の動向が注目される。

